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ASU 2025-06がもたらす内部利用ソフトウェアの                 会計実務転換点:資産化判断を再設計する(前編)

会計

2025年11月

ASU 2025-06がもたらす内部利用ソフトウェアの会計実務転換点:資産化判断を再設計する(前編)

 

米国会計基準審議会(FASB)が2025年9月に公表したAccounting Standards Update(ASU)2025-06は、内部利用ソフトウェアの会計処理を根本から見直す重要な改訂です。本シリーズの前編では、改訂の背景や現行基準(ASC 350-40・ASU 2018-15・ASC 985-20)との関係を整理し、企業が直面する判断構造の変化をわかりやすく解説します。

 

背景

クラウド移行の加速と、短いサイクルで設計・開発・テストを繰り返しながら利用者のフィードバックを即座に反映するアジャイル開発の普及により、ソフトウェア関連支出を「資産化(capitalization)」すべきか、それとも「費用化(expensing)」すべきかという判断は、米国子会社の損益構造や主要業績指標(EBITDAなど)にこれまで以上の影響を及ぼすようになっています。

こうした開発環境の変化に対し、従来の「予備調査」「開発」「実装」といった段階別モデルでは、実務上の判断が曖昧になり、企業間での一貫性が保ちにくいという課題が指摘されていました。これを踏まえ、FASBはASU 2025-06を公表し、内部利用ソフトウェア(ASC 350-40)の会計処理を見直しました。

改訂後は、「経営によるプロジェクト承認」および「完成可能性(probable-to-complete)」の二条件を満たした時点で資産化を開始するという原則ベースのアプローチへ移行しています。このとき、重大な開発上の不確実性(significant development uncertainty)が残る場合には、たとえ開発が進行中であっても資産計上を認めないことが明確にされました。本改訂は、2027年12月15日以後に開始する事業年度から適用され、早期適用も可能です。

さらに、クラウド・サービス契約(Cloud Computing Arrangements, CCA)に関しては、すでにASU 2018-15によって内部利用ソフトウェアの指針(ASC 350-40)が準用され、クラウドサービスの利用企業(customer)は、資産化した実装費を契約期間(合理的に確実な延長期間を含む)にわたり償却する取扱いが整備されています。SaaS導入時の設定やカスタマイズなど、ベンダーによる実装活動(implementation activities)は資産化の対象となる一方、データ移行や従業員研修に要する支出は原則として費用処理とされます。この「線引き」の明確化は、財務報告の一貫性を維持するうえで依然として重要な論点です。

ASU 2025-06の導入により、開発初期の不確実性が残る支出は費用計上されやすくなるため、導入初期には営業利益やEBITDAが一時的に低下し、その後の減価償却費減少によって損益が平準化する傾向が想定されます。

本稿では、これらの改訂を踏まえ、内部利用ソフトウェア(ASC 350-40)、クラウド実装費(ASU 2018-15)、および販売用ソフトウェア(ASC 985-20)の位置づけと実務的な境界線を整理し、企業が備えるべき実務対応の方向性を解説します。

現状(判断が分かれる三つの領域)

現在、ソフトウェア関連の支出については、①内部利用ソフトウェア(ASC 350-40)、②クラウド契約に係る実装費用(ASU 2018-15により内部利用ソフトと同様の考え方で処理)、③販売用ソフトウェア(ASC 985-20)という三つの異なる会計上の扱いが併存しています。

そのため、同じ「開発費用」であっても、適用する基準によって資産化の要件や費用処理の範囲が大きく異なります。

  1. 内部利用ソフトウェア(ASC 350-40)

従来の「予備調査段階」「開発段階」などの区分モデルは、ASU 2025-06により撤廃されました。新基準では、経営の承認(authorization)と完成可能性(probable-to-complete)を同時に満たした時点から資産化を開始し、重大な開発上の不確実性(significant development uncertainty)が残る間は資産化できません。判断は形式的な段階ではなく、「実際に完成まで到達できる見込みがあるか」という実質的な評価に基づきます。

ASC 350-40によるモデル(ASU 2025-06 適用前)

段階

内容の概要

会計処理

① 予備調査段階(Preliminary Project Stage)

構想・要件検討・ベンダー選定・技術調査など。PoC(概念実証)や基本設計前の段階。

費用処理(Expense)。この段階の支出はすべて発生時に費用。

② 開発段階(Application Development Stage)

実際のプログラム開発、コーディング、テスト、インターフェース構築など。内部利用に供するソフトの実装。

一定の要件を満たす場合に、資産計上(ASC 350-40-25-12 Capitalize)。直接発生した給与・外注費などをソフトウェア資産として計上。

③ 運用・実装後段階(Post-Implementation / Operation Stage)

導入後のトレーニング、データ移行、保守・改善。

費用処理(Expense)。日常保守・運用費は全て費用。

  1. クラウド・サービス契約(CCA)の実装費用(ASU 2018-15)

サービス契約型のクラウドでも、実装費用のうち内部利用ソフトの資産化要件(ASC 350-40)を満たす部分は資産計上し、満たさない部分は費用処理とします。とくにデータ移行やユーザートレーニングは原則費用です。「SaaS費用はすべて当期費用」ではなく、実装費のうち資産計上対象の有無や表示区分を適切に判断・開示する必要があります。

  1. 販売用ソフトウェア(ASC 985-20)

技術的実現可能性(technological feasibility)が確立する以前の開発費は費用処理するという原則が維持されています。ASU 2025-06の影響は及ばず、内部利用ソフトとは資産化の判断基準が異なる状況が続きます。販売用ソフトは市場投入を前提とするため、内部利用ソフトの「完成可能性」よりも厳格に、技術的実現可能性の立証(feasibility evidence)が求められる点が特徴です。

出典:FASB, ASU 2025-06/ASU 2018-15/ASC 350-40/ASC 985-20/ASC 360-10

このレターでは、読者がなるべく理解をしやすいよう、枝葉末節にとらわれず、一般論を記載するよう心がけており、プレミア会計が専門家としていかなるアドバイスを提供するものではありません。個別の内容については、専門家にお問い合わせください。

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