米国ミドルマーケットM&Aで今起きていること:大規模な事業承継の波
Premier Kaikei
2026年7月13日
その他
2026年7月
米国ミドルマーケットM&Aで今起きていること:大規模な事業承継の波
米国では今、大きな世代交代が進んでいます。今後10年で、過去に例を見ない数の事業オーナーが引退を迎えると見込まれています。一方で、その多くは明確な事業承継プランを持っていません。
McKinsey & Companyのリサーチによると、2035年までに米国の中小企業約600万社がオーナーシップの移行に直面する可能性があり、そのうち100万社超が実際の売却候補となり得るとされています。これらの企業価値は、最大で5兆ドルにのぼる可能性があります。
これは単なるでもグラフィック変化の問題ではありません。米国M&A市場における構造的な機会です。
オーナー企業やファミリービジネスの多くは、収益性があり、地域で信頼され、地域社会に深く根ざしています。しかし、適切な承継プランがなければ、廃業、雇用喪失、企業価値の低下につながる可能性があります。McKinseyは、承継の失敗により最大1,200万人の雇用がリスクにさらされる可能性があると指摘しています。地域社会にとっては、雇用主、税収、生活に不可欠なサービスの喪失を意味します。一方、買い手にとっては、事業承継を背景とした買収機会が今後増えていくことを意味します。
米国での成長を目指す日本企業にとって、これは今後数年間で最も魅力的な機会の一つとなるのではないでしょうか。ただし、この機会は単に「安く買う」ことではありません。質の高い米国企業は、引き続き高いバリュエーションで評価されるでしょう。本当の機会は、従業員、顧客、企業の歴史、そして事業の継続性を大切にするオーナーにとって、信頼できる長期的な承継者になることにあります。
この点で、日本の戦略的買い手は大きな魅力を持ち得ます。多くの日本企業は、長期志向の資本、現場に根ざした経営規律、製造ノウハウ、長期的な顧客関係、そして安定性を重視する姿勢を持っています。従業員を守り、自ら築いてきた事業を維持したいと考える米国オーナーにとって、日本企業は、純粋な金融投資家よりも好意的に受け止められるのではないでしょうか。
こうした流れは、より広い投資トレンドにも支えられています。米国商務省経済分析局(BEA)によると、2025年の米国への新規外国直接投資は2,322億ドルとなり、2024年から49.5%増加しました。その中で、日本は最大の投資元国となり、対米新規投資額は505億ドルに達しました。また、JETROによると、2024年末時点の日本の対米直接投資残高は8,192億ドルに達し、投資国別で日本が第1位となっています。
買収予算が約2,000万ドルから2億ドルのクライアントにとって、最も有望な機会は、必ずしも小規模な「メインストリート」型ビジネスにあるとは限りません。むしろ、より規模のある創業者主導企業、企業からのカーブアウト案件、そして分散した業界におけるプラットフォーム買収に注目すべきです。まずプラットフォーム企業を取得したうえで、その後、承継課題を抱える小規模企業をアドオン買収の対象とする戦略が有効になり得ます。
有望なセクターとしては、特殊製造、産業サービス、食品・飲料、ヘルスケアサービス、流通、保守・修理、物流、環境サービス、B2Bサービスなどが挙げられます。これらは、米国において依然として業界が分散しており、オーナー主導の企業が多く、事業承継ニーズが高い分野です。
もっとも、買い手には慎重な規律が求められます。オーナー企業では、オーナーへの依存度が高い、財務報告体制が限定的、顧客集中がある、マネジメント層が十分でない、業務プロセスが属人的である、といった課題が見られることがあります。日本企業は、プロセスの早い段階から、収益の質、運転資本の必要水準、経営陣の厚み、顧客維持の見通し、文化的な適合性、そしてクロージング後の統合計画を慎重に評価する必要があります。
現在のM&A市場では、案件の選別が進んでいます。 PwCによると、2026年最初の5か月間における米国M&A市場の取引金額は約1.2兆ドルに達し、前年同期のほぼ2倍となりました。一方で、取引件数は4%減少しています。これは、市場には十分な資金がある一方で、買い手がより質の高い案件へ資金を集中させていることを示しています。さらに、Capstone Partnersによると、一般的なM&A案件のEBITDA倍率は約6.8倍、優良案件では約9.8倍と見込まれています。つまり、優良企業については、買い手は「割安な価格で取得できる」と期待すべきではない状況にあるといえます。
日本企業の買い手にとってのメッセージは明確です。今から準備を始めるべきですが、焦る必要はありません。正式なオークションプロセスが始まるのを待つだけでは、十分な機会を得られない可能性があります。むしろ、直接的なアプローチや、信頼できる現地アドバイザー、業界に精通したネットワークを活用し、オーナーが正式に売却を決断する前の段階から関係を構築することが、最良の投資機会につながる可能性があります。
この「大規模な事業承継の波」は、後継者不足により多くの企業が廃業を余儀なくされれば、米国の地域経済にとって大きな課題となります。一方で、日本企業にとっては、雇用を維持し、事業の継続を支えながら、将来の成長に向けた米国事業基盤を構築できる、まさに一世代に一度ともいえる貴重な機会でもあります。
※本ニュースレターは一般的な情報提供を目的としており、特定の税務・投資アドバイスを行うものではありません。個別の判断については、401(k)プランの専門家または税務アドバイザーへご相談ください。
This article is intended as general information only and does not constitute professional advice. Using this document or any other material provided by Premier Kaikei LLP, Premier does not create a professional-client relationship. All information should be independently verified before being relied on or acted upon. Please speak to an experienced professional for case-specific questions.