内部統制だけでは防げない?「不正のトライアングル」から考える組織づくり
前回は、内部統制の目的やJ-SOXについてご紹介しました。しかし、どれだけ優れた内部統制を整備しても、不正を100%防ぐことはできません。その理由を理解するうえで知っておきたいのが、「不正のトライアングル」という考え方です。
不正のトライアングルとは、不正が発生する背景には次の3つの要素がそろうと考える理論です。
- 動機(Pressure):金銭的な困窮、過度なノルマ、生活環境の変化などのプレッシャー
- 機会(Opportunity):チェック体制が甘い、承認者が形だけになっているなど、不正ができてしまう環境
- 正当化(Rationalization):「あとで返すつもりだった」「会社も自分を正当に評価していない」と、自分の行為を正当化する心理

企業は内部統制によって「機会」を減らすことはできます。しかし、「動機」や「正当化」は、制度だけでは解決できません。例えば、経理マネージャーは会社のお金や決算情報を日々扱う重要なポジションです。一方で、業務量が多く、責任も重いにもかかわらず、十分な権限や評価、待遇が与えられていないケースも少なくありません。もちろん、給与が低いから不正をするという話ではありません。しかし、「これだけ会社に貢献しているのに評価されない」「自分だけが苦労している」という不満が積み重なると、不正を正当化する心理につながるリスクは高まります。
もう一つ見落とされがちなのが、「経理はコストセンター」という考え方です。営業部門のように直接売上を生み出す部署ではないため、人件費を抑えようと考える企業もあります。しかし、経理部門は会社の財務情報を守り、取引先や金融機関、株主からの信頼を支える重要な役割を担っています。その中核となる経理マネージャーには、高い専門性と倫理観が求められます。責任に見合った報酬やキャリアパスを用意することは、優秀な人材の定着だけでなく、不正リスクの低減という観点からも重要な投資と言えるでしょう。
また、不正が発覚した場合の損失は、不正により失われた金額だけではありません。企業の信用低下、監査対応や調査費用、取引先との関係悪化、従業員の士気低下など、その影響は想像以上に大きくなります。内部統制を整備し、人材へ適切に投資することは、一見するとコストに見えるかもしれません。しかし長期的に見れば、それは会社の信用を守り、持続的な成長を支えるための「保険」であり、最も費用対効果の高い経営判断の一つなのです。
だからこそ、内部統制はルールを作るだけでは不十分です。適切な職務分掌や牽制機能に加え、責任に見合った報酬や評価、相談しやすい職場環境を整えることも、不正防止の重要な取り組みと言えるでしょう。優秀な経理人材は、会社の信頼を支える重要な存在です。内部統制への投資だけでなく、人への投資もまた、健全な企業経営には欠かせないのです。
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